SPECIAL INTERVIEW

あるべき自分で、いさせてくれる街。


関西料理を源流とする銀座の日本料理。

 「くろかべ」を辞めた後、僕は神戸、金沢で修行を積み、1959年に赤坂の「常盤家」に料理長として招かれました。その後、銀座の「トンボ」を経て、1971年に創業したのが「ろくさん亭」です。元々銀座という街は、昭和の初めに、「金田中」の岡副さんや「浜作」の塩見さん、先頃閉店した「出井」の出井伸八さんたちが創り上げた関西料理の街。昔の大企業の社長は贔屓の料理人を囲う風習があって、本社を東京へ移転する際に料理人を呼び寄せることも多かったようです。今では当たり前となったカウンタースタイルの割烹も当時の関西料理人が持ち込んだもの。この辺りは、もうほとんどが関西料理の店で、「ろくさん亭」を出した頃には、少なくとも80軒程の店があったと記憶しています。

銀座人の美意識が街の空気をつくっている。

早いもので「ろくさん亭」は、2015年で創業44周年を迎えます。そしてこの間、僕は銀座の諸先輩方から色々なことを教わりました。例えばいつも感心していたのは、彼らが決して外国製の高級車に乗らなかったこと。僕は初代なので割と気ままでしたが、やはり老舗の二代目・三代目の皆さんには、店の者がお客さまより良い車に乗るべきではないという暗黙のマナーがあったようです。 また生活の中の所作ひとつとっても、たとえば洗面台を使ったらきちんと拭き清めたり、小さなゴミが落ちていたら拾ったりと、良い習慣を身に付けている印象がありました。そういう一人ひとりの美意識が積み重なっていることが、銀座に流れる特別な空気の本質なのではないでしょうか。

料理のお師匠さんは、銀座のお客さま。

僕は自分の料理を“銀座の料理”だと思っています。かつてある外国人のお客さまの要望で、彼が苦手だという醤油を使わずに料理を作ったことがありますが、そういう様々な価値観に触れる中で、僕は日本料理の新たな可能性を見いだしてきました。そもそも銀座のお客さまは、あちこちで美味しいものを食べてきた人たち。そういう人たちと対峙する緊張感が、料理人としての成長を大きく促してくれました。僕のお師匠さんは、銀座に来る目と舌の肥えたお客さま。つまりは銀座という街が、僕の料理を磨き上げてくれたのかなとつくづく思うのです。

“忙人は老いず、流水は濁らず”。

料理の世界は奥深く、80歳を過ぎてもなお知らないことがたくさんあります。ただひとついえるのは、古き良きものをしっかりと受け継ぎながら、一方で新しい流れをしなやかに受け止めた、僕らしい日本料理を追求していきたいということ。最近は、「道場旬皿」という取り組みを通じ、世の中に新しい料理を発信していますが、やはり調理場に立っていることが僕の一番の幸せなのです。

僕は常々「忙人は老いず、流水は濁らず」という言葉を大切にしてきました。人間として生まれてきたからには、やはり完全燃焼したい。死ぬまできちんと働き、人生を愉しんで、生きたように死ぬのが僕の理想です。亡くなったキューピーの藤田さんに言われたのは、「80歳になったら、教育と教養やで」ということ。要するに“今日行く”ところと、“今日用”があることが大事なのです(笑)

あるべき自分を取り戻す“反省の場”。

20歳のときから銀座を見てきましたが、僕にとってこの街は“反省の場”であるような気がしています。例えばショーウィンドウに自分の影が映る。ちょっと腰が曲がっている。そこで「おっと、これはあかんな」と、あるべき自分を取り戻すわけです。またカウンターの前では、まな板映えから、包丁使い、箸使いまで、すべて舞台の上の役者だと思って細かな所作にまで気を配っています。街と人の美意識に自分の今を照らすことで、常にあるべき自分でいさせてくれる街。それが僕にとっての銀座です。

道場六三郎

1931年生まれ。石川県山中温泉出身。1950年、銀座「くろかべ」で料理人としての第一歩を踏み出し、その後、神戸、金沢で修行を重ねる。1971年に銀座「ろくさん亭」を開店。1993年からは、フジテレビ「料理の鉄人」で初代「和の鉄人」として活躍し、27勝3敗1引分けの輝かしい成績を収める。2000年、銀座に「懐食みちば」を開店。2007年、旭日小綬章授賞(勲四等)。2011年、80歳の節目に、和食の伝統と道場独自の心を伝える「道場旬皿」の取り組みを開始。

銀座ろくさん亭(日本料理)

銀座で愛されて43年。道場六三郎の料理哲学が詰まった「道場和食」のお店です。ビルの8・9階に広がる店内は、大きめの木製タイルやレトロモダンな照明器具が、昭和の懐かしい雰囲気を感じさせる空間。9階には落ち着いた雰囲気の個室、8階には厨房前で料理を愉しめるカウンター席も用意されています。おすすめは月替わりの献立が愉しめる「ろくさんコース」。旬の食材の持ち味を丁寧に生かした一皿一皿が、銀座の夜により豊かな時間を演出します。

銀座ろくさん亭
住所:中央区銀座8-8-7 第三ソワレド銀座ビル8・9F
電話:03-3571-1763
営業時間:17:00~22:30
定休日:日曜、祝日




前菜
海老芋河豚白子柚子味噌
本日の釜飯

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